りんごの木ゼミナールVol.8 言語習得の視点から見た絵本の大切さー言語学研究者 加藤直子さん

子供は本を読んでもらうことが大好きですよね。我が家の娘たちも絵本が大好き。私も毎日のように娘たちに読み聞かせをしていますが、彼女たちが『ママ~これ読んで~!』と持ってくる本は決まって同じ本。皆様も同じような経験ありませんか?『また同じ本かあ・・・』と、つい面倒臭いなぁと感じてしまうこともあるかと思います。

けれど、実はこの同じ絵本の繰り返しには理由があるのだそうです。言語心理学の針生悦子先生は次のように分析しています。「子どもは繰り返し読んでもらうことで物語の展開を把握するようになり、今度は、そのような自分の予測を確かめて楽しむべく、お気に入りの絵本を何度も読んでもらおうとするようになっていくのだろう」(針生,2001)。

絵本の重要性について言語習得の観点からも考えてみましょう。言語学者の大久保愛先生は、「絵本や童話の作家は、内容はもちろん、ことば選びや表現に敏感で、適切な美しいことばを教えてくれるとともに、母親が子どもに話す日常のことばづかいとはちがった文章語を教えてくれる。小学校から学ぶ文字教育の世界へ入りやすくしてくれるのである。」と述べています(大久保,1993)。つまり、絵本は子どもが話し言葉とは異なる文章語に触れることができる重要な時間であると考えられます。

では、文章語と話し言葉の大きな違いはなんでしょうか。それは助詞の省略(脱落)だと考えます。日本語の場合、話し言葉の特徴として助詞の省略(脱落)があります(山田・中川,1996)。そして、話し言葉で省略(脱落)される助詞は、文章の意味を変えてしまう程重要な機能を持っています。例えば、「猫を怒りました」と「猫が怒りました」では全く意味が異なりますね。ですから、助詞を正確に理解するということは文章を読んでいく上でとても大切なことなのです。

何年か前を思い出してみると、発話し始めたころの娘は、目の前を犬が通り過ぎる時

「わんわん いた!わんわん いた!」といつも大騒ぎしていました。この発話は「わんわん が いた」の助詞「が」が省略(脱落)されています。話し言葉の場合、助詞が省略(脱落)されていても問題はありません。一方、絵本の中で犬が通り過ぎる場面があったとしたら、おそらく「犬がいました」といったように、助詞がきちんとした文章語で表現されます。助詞の省略(脱落)がない文章語を幼い子どもが耳にすることができる絵本の読み聞かせは、文章語の文法に触れる時間としても大切なことなのです。

こういう視点をもって絵本を読み聞かせてみると、心地よいリズム感のある表現で、実にたくさんの助詞が絵本の中で使われているなぁと実感できるでしょう。ぜひ、その表現の豊かさを皆様も一緒に楽しんでみてください。きっと、読み聞かせの時間がさらに生き生きとしたかけがいのないものとなることでしょう。

【参考文献・参考資料】

  • 大久保愛『乳幼児のことばの世界』大月書店、1993
  • 針生悦子「幼児期における読解の発達」秋田喜代美ほか編『文章理解の心理学―認知、発達、教育の広がりの中で―』北大路書房、2001
  • 山田剛一・中川裕志「助詞・無助詞の意味と役割」『全国大会講演論文集』第52回平成8年前期(3)(1996):pp .57-58.

【筆者プロフィール】

top_news_5加藤直子 :お茶の水女子大学博士後期課程所属。お茶の水女子大学グローバル教育センター日本語非常勤講師。小2 と幼稚園年長の女の子、二人の育児をしな がら、お茶の水女子大学で研究と留学生への日本語教育を行う。研究 テーマは日本語習得・異文化で暮らす外国人妻の支援。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*