メインの曲目は23.Klavierkonzert A-Dur(KV488)で、客席にはおじいちゃんから赤ちゃんまでがびっしりと席を埋め尽くしていました。
ちょうど曲と曲の合間で、次の曲が始まる瞬間、具体的には指揮者が指揮棒を静止させた状態になったとき、オーケストラ団員たちは指揮棒の先端を一心に見つめ、会場もシーンと静まり返る中、後ろの方で赤ちゃんが「にゃー・にゃいーーーーん」(私にはそう聞こえた)と叫びました。静寂に包まれていた会場に、赤ちゃんの「にゃいーーーん」という雄叫び。
その瞬間、会場はドカンと大爆笑に包まれたのです。オーディエンスだけではなく、指揮者も笑い、それに乗じて指揮棒の先端も揺れていました。オーケストラの団員たちも皆、笑っていました。そんな和やかな雰囲気の中、私も笑ってしまいました。長い曲の合間に赤ちゃんが「Nein!」(もうやだー!!)と叫んだのですから、それはそれは、皮肉にも吹き出してしまう雰囲気でした。
このクラッシックコンサートという静寂さを暗黙的に強いる雰囲気の中、その雰囲気を察することがまだできない乳幼児に対し、周囲の人々の寛容さに私は驚きました。弾く側も聴く側も、笑いに変えてしまっているのです。
もし日本だったら、周りの人が「赤ちゃんを連れて外にでなさい」という冷たく痛い視線を赤ちゃんを膝に乗せている母親に投げかけたに違いないこの場で、あまりにも周囲の反応が温かかったのです。私はハッとしました。日本であれば、ここで母親がいかに申し訳ないという態度を示せているのか、周囲に気を遣って、速やかにその場を去るという行動にでることができたかが試される場です。
そもそも赤ちゃんをこのような場に連れてくることすら考えられないかもしれません。
